マガジン新人賞統計データ考察

面白いデータが掲載されていたので考察してみる。数値的な考察を提供してくれている所は少ないので貴重。

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まずはジャンル。割とバランスよく分類されているので、ジャンル毎に数を決めて採用していると予測できる。ファンタジーが多いのはジャンルとしての定義が広いからだろう。能力バトルモノは全部ファンタジーに入るだろうし、読み切りだとどうしても驚かせる展開が必要になる。実際、「インフェクション」のようなサバイバルモノや「神さまの言うとおり弐」や「リアルアカウント」などのデスゲームはファンタジーに分類されかねない。
やや不思議なところとしてはマガジンではSFっぽい作品は現在連載していない。それなのに一定数受賞している。「エアギア」などメカを描くのが上手な作品は存在したが、ロボロボしいのは見た覚えがあまりない。描きたい人は多いが需要がないコンテンツなのだろうか。

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次に年齢のデータだが、ここはあまり気にしても仕方ないだろう。恐らく漫画を仕上げるだけの時間を確保できる年齢が多くなっていると考えられる。

ページ数に関しては通常の連載の2倍くらいのページが多いが、注釈によると現在50P以内という制限があるらしい。そして、グラフを見た所50Pいっぱいを使っている作品が結構ある。これはエントリーシート提出時の空欄を作らない日本人の精神を感じてしまい、もう少しなんとかならないのかとは思ってしまう。なんで50Pにしたのか?という意図が努力アピールじゃなく理由を説明できるならアドバイスをする人も改善案を出していけるだろう。

そして、一番下の気になるデータあれこれの項目が一番面白い。
本文にも書いてあるが、ヒロイン不在の作品が40%もあるらしい。少年漫画を考えるとヒロインの登場頻度はおいておくと多くの漫画にヒロインは登場する。お色気要素に至っては12%という低さになっている。これは漫画を描く人は露骨な人気取りを毛嫌いしている人が多いのではないだろうか。それにも関わらず新連載の1話目にサービスカットを置くことは相変わらず多く、その度に私は残念な気持ちになる。せっかくデータを取る気概があるのなら、サービスカットの有無により作品の人気が変動するかどうか統計を取って欲しい。それで明確な結果が出たのなら漫画も商売なので仕方ないと諦めもつく。
漫画は懐が広いのでハッピーエンド以外の作品もそこそこある。それでもハッピーエンドが多いのは少年誌ならではかもしれない。
見開きに関しては電子書籍派としては読みにくいので無くしていってもらった方が良い。割合を見た感じとりあえず入れている人も多そうに感じる。見開きだから良かったというのを今まで感じたことがないので偏見かもしれないが。阿弥陀流 無無明亦無は面白かったけど。
コマの数に関しては他の漫画を見返してみても偏りがあるので参考程度かなという感じもする。例えば見開きがあった場合や戦闘シーン、競技シーンでは大きく偏ることが予想できる。中央値を取った方が良かったかもしれない。

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こちらのデータも中央値を取った方が良さそうなデータでもったいない。特にスポーツモノの題材にサッカーを選んで登場人物が10人とかいたらブレそう。関係性が描かれた人物だけを登場人物に加えていたのならそこまで大きく変動しないので問題なさそうだけども。
まー、そもそも母数が10以下なので細かく考えても仕方ない気もする。
しかし、40Pの中で場面転換が10回近く行われるのは読み切りならではかもしれない。4P毎に場面転換とはせわしない。こういうデータを見ると場面転換が1回もないストーリーを期待してしまうあたり天邪鬼である。

そして、連載獲得率についてネガティブな事は書けなかった為だろうが明らかに読み取れる傾向について語られていない。グラフが明らかに右肩下がり、回数を追うごとに連載獲得率が下がっているのだ。これはネットで話題になり連載を獲得するような人が増えた(新人賞外経由での連載が増えた)ことも影響しているのではないかと思う。実際、本誌に掲載されている「徒然チルドレン」はそのタイプの漫画だったと記憶している。
個人的に現代においてコンペ方式(多くの応募の中で良いものだけに賞与を払う)は不誠実だと思うし、特定の専門家数十人が判断するよりもお客さんに直接聞いてその評価に値する賞与を漫画家に還元する方が紳士であると思う。
今、ただ切り捨てられる人にとっては小銭を稼げるweb漫画や同人誌の方がよっぽど有益で連載に近いものとなってしまっているのではないだろうか。

引用

週刊少年マガジン 2016年16号 299~301ページ

[馬田 イスケ]紺田照の合法レシピ

紺田照の合法レシピ(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

紺田照の合法レシピ(1) (KCデラックス 月刊少年マガジン)

無料分

紺田照の合法レシピ / 馬田イスケ - ニコニコ静画 (マンガ)

感想

twitterで知ったヤクザモノと料理モノを合わせた作品。最近の食べ物系漫画が流行っているおかげでどんどん変な方向へ舵がきられていっているような気がする。

この漫画は食べるだけのグルメ漫画と違って自身で高度ではない料理を作る庶民料理モノ。こういった漫画の特徴として実際に作れるメニューやレシピを紹介するという事がよくされるが、この漫画もクックパッドでレシピを公開している。

紺田照の合法レシピの公式キッチン [クックパッド] 簡単おいしいみんなのレシピが232万品

クックパッドとコラボというのが現代っぽくて面白い。しかし、「坂本ですが?」ばりのシュールギャグメインの料理漫画にそういった需要はあるのだろうか。世の中は複雑である。

[加藤片]良い祖母と孫の話

無料

良い祖母と孫の話

感想

弁当の中身をトイレに流しているショッキングなサムネイルに引き寄せられて読んでみました。

本音を隠して建前で接することがお互いの利益になる。しかし、それはやはり歪でどこかで歯車が合わなくなる。だんだんずれていくそんな様子が描かれた漫画。

出てくる登場人物が全員良い人で、でも人間臭い。そういった所が素晴らしい。絵に描いたような悪人が出てくるわけでもないのにどんどん雲行きが悪くなる。相手の為を思って行動しているのに胃がキリキリする。でも、だからこそ修正し成長していける。そんな真っ直ぐではないけど実直な力強い物語。

[山本 崇一朗]からかい上手の高木さん

無料分

LINEマンガ、kindle等で1巻無料

感想

恋愛モノのこそばかゆい所だけを集めたラブコメ

普通の恋愛モノでは行事だの友人との衝突だの恋敵だの色々な要素で構成されているが、この漫画はその中でも主人公とヒロインがふざけあっている箇所だけを抜粋することに務めているのが印象的。

それ故に先の展開が気にならないし、マンネリ感も出てしまうがこの作者の描くキャラクターが好きならば延々と読み続けられるだろう。下手にテコ入れをするとこの漫画の良さを壊してしまいかねないので絶妙なバランスの漫画だと思う。

[内水融]サエイズム

無料分

LINEマンガにて連載中。

感想

完璧優秀な友達が実は一番の悪だった。そんな不思議な展開をする漫画が「サエイズム」だ。

この漫画の面白いところは倒すべき敵が友人であり、かつ堂々としていることだ。敵に後ろ暗さも何もなく主人公のそばにいる身近な存在にも関わらず絶対的な実害を与えている。主人公サイドもずる賢い方法で倒そうとするが、それを正々堂々と真正面から叩き潰すという主人公らしさを持った敵というのはあまり類をみないので面白い。

[冬目景]幻影博覧会

幻影博覧会(1) (バーズコミックス)

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無料分

LINEマンガにて連載中。

感想

LINEマンガでの水曜の無料連載は個人的に読んでいる漫画が多くてほくほくしてます。
その中でも好きな作者である冬目景さんの作品です。

イエスタデイをうたって」で知った作者なのですが、絵柄が好みで素朴なストーリーが素敵でした。表情をコロコロ変えて描くのが上手でキャラクターが生き生きしています。こっちは長めの作品なので短めで良かったのだと「ACONY」があります。3巻完結なのでさくっと読めるのでオススメです。個人的にマンガは7巻で終わるのがベストだと思っているのですが皆さんどうでしょうか?長過ぎるとダレるし、短すぎると物足りない。終わらせ方が下手な作者は多いので(雑誌掲載の都合のせいかもしれませんが)綺麗に終わらせてくれるとそれだけで高評価だったりします。

話を戻して、本作「幻影博覧会」ですが冬目景さんの魅力であるコロコロ変わる表情がヒロインにありません!本編中で言及されているくらいなので新しいタイプの魅力を出してくれるのかもしれません。

あと、この作者が描く着物が素晴らしいので時代設定が良いです。普通に着物が出てくる。

[梶川 卓郎]信長のシェフ

信長のシェフ 1 (芳文社コミックス)

信長のシェフ 1 (芳文社コミックス)

無料分

LINEマンガにて連載中。

感想

歴史モノと料理モノを混ぜた漫画。

現代の知識を持って戦国時代の日本を生き抜く料理人の生きざまを描いた漫画。 作中で描かれる主人公が博識で当時の文化的背景や戦況的状況を料理で伝える。例えば、降伏しなければ攻め込むという織田信長の意思を料理に込めて作らせるという婉曲的な外交が行われる。また、親交を深めたり抱え込んだり戦を盛り上げたりするために作らせるなど、料理の幅広い立ち位置を再認識させてくれる。

そういった戦国時代の歴史的経緯を重要視した側面を持つ料理だけでなく、当時存在しない酵母や調味料を作った料理をどうやって作成するかといった料理の科学的側面を取り扱ったりと懐が広い。

その中でも困難に真正面から挑み、料理人として解決していく主人公は安心してみていられる。